Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第26話 ポセイドンの魔海

脚本・辻真先  絵コンテ・大貫信夫

116◆お約束の魔海

古えよりの魔の海を横断するトリトン一行は、遂に大御所・大西洋へ突入した。トリトンは、サルガッソー海ではないと言っているが、このポセイドンの魔海のモデルである映画「魔獣大陸」(1968年)は、紛れもなくサルガッソー海ものである。多少の置き換えはあるが、基本的にはこの作品のディバージョンになっている。マイペスが火ダルマになって海に落ちただけで、全ての吸血ヒドラ花に引火したのを怪訝に思った方には、鑑賞をお勧めしておく。他に「魔海の髑髏島」(1923年)、「魔の海」(1929年)も参考にしているかもしれない。

このポセイドンの魔海は、さすがにお膝元らしく質より量勝負となり、トリトンらは大ピンチとなる。その後、パワーバランスは、旅イルカの登場でたちまち均衡を取り戻す。しかし、そのために魔海がチャチになってしまっている。締め括りの部分は、短剣の輝きで呪文解除されて外海へ脱出するとか、改造前の原型人間が怪人を襲ったり、魔海自体がマイペスの能力で出来ているといったような選択枝があったのではないか。そして、追いすがるザコ怪物の掃討を旅イルカ達にまかせて、トリトンは気絶するというのはいかが?

117◆魔海の怪物◆

吸血海草、双頭の鮫、大ダコ、大ザリガニ…、映画「魔獣大陸」を基本とし、各種の怪物映画・小説から総出演している。大ダコの白眉は「サンダ対ガイラ」(1966年)、大ザリガニは、現存種のロブスターのようである。これは東京・サンシャイン水族館で見る事ができる。

118◆怪人たちの素体◆

怪人たちは、陸人をベースにして改造されたものらしい。この設定は、映画「謎の大陸アトランティス」の人間を動物に変身させる話を基本に、「モロー博士の島」や当時全盛だった「仮面ライダー」にインスパイアされたものだろう。

本体を改造すると、元のボディは残らない。これは改造人間も新造人間も同じだ。単純に考えれば、記憶の外部化及び移植のみでなければならない。しかし、それでは手間ばかりかかる上、陸の記憶も消去せねばならず、もはや生命創造に等しい。となると、船に残されていた素体は、一種の蝋人形館に過ぎない。
素体の着衣は、ルネサンス期のものからフランス革命前後のものまで幅広い。ウプランドと呼ばれたゴシック様式の外衣、ブロケードのサックドレス。男は、バンド(ひだ襟)をつけたスペイン・ルックの縞柄、カルマニョルに似た風体、サンキュロット・スタイルといった所か。

ポセイドンの怪物たちの中には、五千年以上生きている猛者もおり、これらは当然略奪された品であろう。

衣裳の話といえば、人魚のシルエットを思わせるマーメイドライン・スカートとして、モーニング・グローリー・スカート(1890年)、ホッブル・スカート(1910年)、ジヴァンシーのマーメイド・ルック(1978年)、また同系でフィッシュテール・スカートがある。第26話は、着せ替えが自由という珍しい趣向なので、いずれかを加えて欲しかったような気もする。