Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第22話 怪奇アーモンの呪い

脚本・宮田雪  絵コンテ・大貫信夫

098◆不知火◆

一般に言う八代海、有明海の不知火とは、陸から海を臨んだ時に見える現象である。従って、トリトンは不知火の意味を、間違って使用している…と考えていた。ところが、原典である「景行天皇の旧事」も、海から陸を見た時の不思議な火の事であった。さすがトリトン、古典にも通じていた(ヨイショ)。

カルと共に不知火へ接近すると、三角錐の岩に囲まれた奇妙な島があった。その上を火が旋回している。人魂である。トリトンは、島の中央に住居がある事を確認し、上陸する事にした。

099◆像への捧げもの◆

崩れかけの集会場には、ポセイドンの像のレプリカに祈りと生け贄を捧げる人々が集まっていた。祝詞の内容は、ポセイドンを崇め悪魔の子トリトンを永遠の眠りにつかせろ…というものだった。「消えた島の伝説」事件以降、悪魔の子コンプレックスだったトリトンは、自制できず、この無気味な集会の真只中へ推参する。

祝詞が最終回の伏線になっている事は判然としている。それはさておき、生け贄の儀式は、マヤ・インカのものとも違う。無論、アーモンの口腔へ直に人を落とすだけなのだから、当然といえば当然の方法だが、ではアーモンとは何者なのか。

ポセイドンの巨大な怪物たちの、本来の役割は何であったのか。例えば特定の金属を集める細菌が存在するように、オリハルコンも生体を媒体にして集めていたとすれば…。そして、採取する作業はどのようなものだったか。
かつてアトランティス人が、オリハルコンをどのようにして入手していたかは、遂に作品中では語られる事がない。もしかすると、アーモンへの生け贄の儀式は、かつての出来事の模倣なのかもしれない。

短剣は、トリトンが持った時だけ燃えるような光を放つ。この、剣が持つ者を選ぶというシノプシスは、非常に古くからある。また、剣が使い手の元へ還るというのも同様である。特殊なのは、短剣の自律的な出力の発動が、この第22話と最終回だけという事である。アーモンという怪物は、オリハルコンに対して特異な「場」を形成しているようである。次回の「化石の森」といい、インド洋海域は、最も血なまぐさい現場のように思える。

100◆ゴシック・ホラー◆

無気味な島、奇怪な偶像、朽ちた建物、突然横切るニワトリ。「ゆうれい船の謎」以来のゴシック・ホラー再登場である。今回の空間の閉鎖性は、第9話に比べてかなり高い。住人たちも、ポセイドンに操られているのか、異常な環境のためにアモク状態にあるのか判らないのも無気味である。

最後は、六十年代B級映画のような豪快な締めであった。軟体動物に喰われるという部分は、C・ジャコビ「水槽」かW・H・ホジスン「難破船」、P・ハイスミス「かたつむり」あたりに取材しているのだろうか。

101◆死神アーモン◆

島のように大きい怪物の話は、世界中に様々な形で存在している。北欧のクラーケン、リヴァイアサン、日本の赤えい…。ひとつの構造物、島、惑星、宇宙が生物という話は、ステロタイプなオチに成り易い。

アーモンは、陸人を島単位で誘拐してトリトンを招き寄せるという小技も使う。また、イソギンチャクの形をしているが、トリトン達の進路に現れたという事は、移動できるのであろう。すると、アーモンの下には、アーモンを運ぶヤドカリが居るのかもしれない…と、これが既にステロタイプなのである。