Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第25話 ゴルセノスの砂地獄

脚本・宮田雪  絵コンテ・斧谷稔

111◆地中海と沈没船

紀元前一千年以上の昔から、各地の沿岸付近を中心に、夥しい難破船が沈んでいるのは間違いない。実際に財宝の発見や回収が行われている。これらが示しているのは、トリトンがその気になれば、経済的な心配を全く必要としない、という事である。

112◆リマラス◆

巨大なカブトガニである。リマラスは、アメリカカブトガニの羅語名。胴長で尾剣が短いのが特徴である。ゴルセノスが、より大きい個体を選別したのなら、リマラスも雌のはずである。

これといった能力は無いが、巨体を生かした必殺のボディアタックが得意技らしい。また、短剣の輝きでも甲皮は蒸発させられなかったので、仰向けにならなければ手強かったかもしれない。

113◆砂の洞窟◆

洞窟の中に砂の流れ…。砂でなく、塩ならば映画「地底探険」(1959年)にも二段階砂地獄の場面がある。どちらかと言えば、映画「風の谷のナウシカ」での腐海の砂地獄の方に似ているかもしれない。暗く黒い岩肌の中で、白い砂のような塩の丘は、ビジュアルとして非常に美しい。

114◆輝きを反射する盾◆

強力な短剣の斬撃をかわすには、まず盾が必要、というのは当然の答えである。しかし、岩を割り、怪物たちを滅殺する輝きをどう受け止めれば良いのか。

まずゴルセノスは、リマラスの脱皮した殻を『セラミック刀が欠けちゃった』とか言いながら、削り出して表面を研磨して仕上げると、反射増加膜としてスモークタワーから出る硫化亜鉛をコーティングする。また通常、盾には覗き穴を開けるが、短剣の輝きに対して弱点となる恐れがある。そこで、盾の数箇所に、緑藻から抽出した毒を仕掛ける事にした。短剣の熱に反応して放出され、トリトンの皮膚や呼吸器系に一部が吸収されると、速やかに平衡感覚の喪失等を起こす。瞳孔が一瞬収縮し、立ち上がれなくなったのは、このためである。

ゴルセノスの失敗は、盾の色を砂と同色にできず、砂分身を展開する際に持つ事が出来なかった事であろう。

115◆砂分身〜ゴーレム◆

砂の洞窟に於いてのみ使える砂分身。シナリオでは、「巨人ゴーレム」と「大魔神」を参考云々とある。

土偶人形の最古のものは、「ギルガメシュ」のエンキドゥであろうか。ルキアノスの作品にも召使い人形を作る話がある。ゴーレムの正統な発祥は、ユダヤの教典「タルムード」であるが、その名を知らしめたのは、グスタフ・マイリンク「ゴーレム」である。

映画のゴーレムは、パウル・ヴェゲナー監督のオカッパ頭の「巨人ゴーレム」(1920年)、J・デュヴィヴィエ監督のスキンヘッド「巨人ゴーレム」(1936年)がある。第25話が参考にしたのは後者である。ゴーレムの額の字を書き変えると、顔がぐにゃりと歪んで粘土に戻り、ぱさぱさと全身が崩壊する。戻す際に使用する文字は、ヘブライ語である。藤田和日郎「うしおととら」等に登場するようなローマ字書きは、使用するフォントに無い場合はともかく、絵の中に使用するのは、避けてほしいものである。おそらく、ボルヘス「幻獣辞典」を参考にしたのだろうと思うが…。

「巨人ゴーレム」の翻案である大映「大魔神」三部作(1966年)も、最後に土くれへ戻る。ゴルセノスの砂分身は、呪文の効果と関係なく水に弱い。海中に入ると、先のゴーレムや大魔神のように土に戻ってしまう。乾燥し過ぎても分解しそうである。非常に限定された条件下でのみ出現できる。