Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第17話 消えたトリトンの遺跡

脚本・松本力  絵コンテ・平田敏夫

075◆浮上する遺跡

明神礁の爆発と高松塚古墳壁画の発見を、足して割ったような設定である。ポセイドン像の放った怪光線によって、海底火山の隆起と共に、かつて沈めたはずのアトラス人の城も、二百年ぶりに姿を現わす。アトラス人の城については、「地球海ネットワーク」の項に書いたので割愛する。

仮にここが記録所ならば、レリーフとして刻まれているのは、記念碑か幼児用教材の類いなのかもしれない。肝心な他の膨大なデータは、陸人と同様に、石英や獣脂の板に凝縮されているだろう。現在、開発中のメモリー容量は、CDと同じ直径12cmで約2TBに達する。こういったものにデータを記録しているならば、後代の者は、誰もそれと気づかないだろう。
遺跡の近くで短剣を抜いていれば、何か起こったかもしれない。その断片も、調査船の老人と共に大波に呑まれ、海底の藻屑となってしまった。

076◆調査船、遭難◆

ポセイドンの力による、突発的な海底火山噴火に巻き込まれた海洋資源調査船は、あえなく座礁し大破した。「トリトン」放映時、日本の海洋観測船にも海自や東大海洋観測船等の、船殻が鋼鉄製のハイテク船が既にあった。
しかし、座礁した船は、どう見ても木造船である。これは、明神礁に取材した事で、当時遭難した第五海洋丸をイメージしているのだろうか。

遺跡ではないが、アホウドリの羽根を求めて明神礁にほど近い鳥島に群がった人々125名が溶岩に呑まれて死亡するという事件も起こっている(明治5年)。また、新田次郎「火の島」等も幾分かは、投影されているかもしれない。

077◆氷山◆

ピピがタッチした氷塊は、緯度を考慮すると巨大氷山の残骸と思われる。南極の棚氷は時折、超巨大氷山を切り離す。1986年には、四国地方ほどもある氷山が確認されている。トリトン一行が、もしホーン岬を回ろうとすれば、おそらくマイペスが、氷山を大量に送り込んだ事であろう。陸人にはそれだけで脅威である。

078◆短剣による消耗◆

第16話に続いて、もはやオリハルコンの短剣無しでは、危機の回避が不可能となる。巨大生物部隊を相手に、トリトンは真っ向勝負に出る。第4話で、デモラーの血に動揺して逃げ出した面影は微塵もない。トリトンは、生き残るための殺戮を完全に受容したのである。しかし、それと同時に、今まで潜んでいたものが頭をもたげてくる。オリハルコンの短剣の覚醒である。