Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第24話 突撃ゴンドワナ

脚本・辻真先  絵コンテ・池原成利

105◆ゴンドワナの喉◆

インド洋から紅海。ここは淡水が流れこまないため、世界で最も美しい海域である。その紅海から地中海へ抜ける海底の大トンネル、アラビアン・トンネルを初めて紹介したのは、J・ヴェルヌ「海底二万哩」である。「ゴンドワナの喉」即ち「ゴンド族の国の喉」の出自は確認できなかった。

このトンネルは紹介当時、ノーチラス号すら通り抜けが可能であった。しかし今や、ポセイドンとガダルの力によって、トンネルは狭く入り組んだ迷路と化している。無数の横穴には、ガダルやウミワタの怪物が手ぐすねを引いて待っているのだ。唯一の航路を知る不死の魚ラカンを、ポセイドンの魔力から解放したトリトンは、再び魔の隘路に挑戦する。

■P.S.(04.05.12)
いろいろ確認したが結局「ゴンドワナの喉」の出自は不明である。それらしきものを取り敢えず並べて、この作業を終わりにしたい。

「ゴンドワナ」という呼称自体、地質的に最も劇的な変化を遂げた箇所にたまたま棲んでいたのが、中世期に興ったゴンドワナだったという事からして、常に神話を基調としている「海のトリトン」では異色である。様々な遡及から、恐竜たちの全盛期の舞台はローラシア大陸・ゴンドワナ大陸・テーチス海として知られるようになった。歴史を更に億年単位で遡れば、超大陸パンゲア・超海洋パンタラッサとなり、それ以前は多島海と古ゴンドワナ大陸となる。

白亜紀のローラシア大陸とゴンドワナ大陸の連なりが、あたかも咽頭のように見える事から付けられた名称かナ?としか言えない。これは、まさしく『富野に訊け!』をするしかない。こんなデカイ喉(全長1万Km)は滅多に無いワケで、そういう意味に於いて「エリアル」10巻に登場する怪物のパーツ名には相応しいかもしれない(Тの本棚参照)。第24話「突撃ゴンドワナ」の舞台である紅海は、その成り立ちが地質学的に極めて若い。恐竜たちの時代には影すら存在しない海でもある。やはり、ポセイドン族の力の賜物かもしれない。

ゴンドワナを舞台に設定した小説としては、未訳だがリン・カーター「ゴンドワナ叙事詩」(Gondwana Epic)がある。

106◆ガダル◆

正体不明の怪物。外見は、ツノガイかオルトケラスに似ているが、ヒドラのような機能も備えている、コノドントの「トリトン」的解釈かもしれない。或いは、アトランティス人が造った人工生命の初期タイプであろうか。

107◆ジュゴン◆

かつては日本近海にも生息していたらしい。ジュゴンを人魚とするなら、「甲子夜話」巻二十の「玄海にて人魚を見る事」に登場する生き物は、正しく該当する。

108◆トリトン対ウミワタ

伏兵マーカスとガダルの奇襲により、オリハルコンの短剣を失ったトリトンは、徒手空拳でヒトデに化けたウミワタと闘う。海中とは思えぬ凄まじいスピードのストレート・ラッシュ。ヒトデは、たまらずロープに逃げると土遁の術を使う。卑怯にも背後からチン・ロックを決められるトリトン、危うし。ヒトデの手が気管を圧迫している。チョークだ、チョーク。しかし、レフリーがいない海中では誰もブレイクさせないゾ。窒息が先か、オチるのが先が。オチたら喰われるぞ、頑張れトリトン。

109◆オペレーションピピ

かつての娯楽活劇映画には、必ず足手まといになる勝気な女性がつきもので、お約束事項であった。しかし、ピピは、ヘプタポーダが実践してみせたように、トリトンをサポートし、リスクを分散させる者が、少しでも多くいた方が良い事を痛切に感じていた。ガダルに弾き飛ばされた後、まだ回収されていないオリハルコンの短剣を見つけたピピは、トリトンの救出を決意する。

ジュゴンの子ジェムに短剣を託し、残りの者でガダルを引きつける囮作戦である。但し、ピピやイルカは、ガダルに対抗する手段を持たないため、迷路を利用してガダルを撒くしかない。そして、すぐに身を隠せないルカーだけが、最後まで一生懸命ガダルに追われるという算段だ。所かまわず、愛は偉大である。

さて、ピピは短剣の輝きを浴びても平気なのは当然としても、輝き自体は生み出す事ができないようである。第7話を見る限り、輝きの保持は可能なようであるが。
ポセイドン族も、オリハルコンの短剣の最終的な用途は知っているが、副産物である光と熱については、さほど知識は無いようである。本来は、「アンチ・ポセイドンの魔力」を主体にした器物なのだ。そうなると、短剣に輝きをもたらすトリトンは、何者なのか。

110◆崩壊するゴンドワナの喉◆

アーモンを屠った時と同様、全方位に向けて短剣の輝きを放出し、洞窟ごとガダルを埋めてしまうトリトン。

ゴンドワナの喉は元々、ポセイドンの力が作り出したものだったため、支持体を失って大規模な崩落を起こしたようである。トリトンは、オリハルコン巨大原子の中に入り、短剣が自ら上方へ逃れようとしたおかげで助かったのである。

かくして、アラビアン・トンネルは元の姿へ戻った。尚、このトンネルは潮流の関係で南から北へしか抜ける事ができないと、「海底二万哩」でネモ船長は語っている。「海のトリトン」では、そこまで触れていない。