Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第15話 霧に泣く恐竜

脚本・宮田雪  絵コンテ・大貫信夫

069◆ブラッドベリ再び

霧の夜、大きな深い叫びに似たホラ貝の音に惹かれ、一匹の古い生き物が深い海から浮上する。この世で唯一の生き残った異種族同士が、ほの明るいくせに先を見通せない海上で邂逅する。この出合いは、新たな惨劇とポリュペイモスの断獄によって幕を閉じる。

レイ・ブラッドベリ「霧笛」にインスパイアされた15話は、翻案としては原作の持ち味を充分に生かしている。失われた種族同士のスレ違いというシチュエーションが、元ネタの側面を新たに照射さえしている。
「霧笛」(映画公開後に題名変更)の翻案は、初代「ゴジラ」の公開前年に封切られた傑作「原子怪獣現わる」が既に存在している。この作品のSFX担当は、ブラッドベリの友人レイ・ハリーハウゼンであるが、タイトルからも推測できるように、「霧笛」の面影は灯台を壊して上陸する所だけである。

同じブラッドベリ作品では「万華鏡」のディバージョンとして、「サイボーグ009・地下帝国,ヨミ編」の他、TVアニメでは「無敵超人ザンボット3」22話、「ふしぎの海のナディア」最終話といった所がある。。氷川竜介「20年目のザンボット3」によると、更に多数あるとの事なので、逐一ピックアップするのも一興ではないだろうか。

また、映画「ジュラシック・パーク」の中盤で、風邪引きブラキオサウルスにグラントとティム、レックスが給餌するシーンがある。恐竜と人間の位置関係と絡みが、この15話を彷佛とさせる。更に彼方には、仲間のブラキオサウルスが首をもたげてくる。密かに「海のトリトン」へのオマージュと思っている。

070◆炎上する船◆

運悪く通りかかった小型旧式の船尾船橋型タンカーは、警笛を鳴らしたため、恐竜に全力でスリスリをされ、あえなく爆発炎上、沈没する。この船が、「霧笛」での灯台の代役であるのはいうまでもない。

071◆爬虫類の世界◆

爬虫類は一般的に、頭骨の構造で4つの亜綱に分類される。これで見ると、メドンは無弓亜綱、デモラーは広弓亜綱、ブラキオサウルスは双弓亜綱に各々含まれる。つまり、全く別の進化系統樹上にある。

「海のトリトン」は、大型爬虫類の登場を、容易に受容できる稀有な作品なだけに、首の短い首長竜クロノサウルスやゲプラー並みに目の大きい魚竜を見てみたかった。イルカのように完成された紡錘型の魚竜、特にショニサウルスは、背中にトリトンを乗せても、おそらく絵になっただろう。