Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第10話 めざめろ、ピピ!

脚本・松岡清治 絵コンテ・池原成利

057◆海底急流

歌う島からイルカ島へ一人で戻ろうとし、理由ありで道草をくったピピは、いきなり強い流れにさらわれて大ピンチに陥る。スクーバ・ダイビングのトラブル体験記にも紹介される事例である。原因は、内部波に遭遇したのであろうか。いわゆる「死に水」の海中版である。塩分濃度に極端な差異が生じると、表面は静かでも濃度の境界線では、船のスクリューも無力化するような強力な波が発生している。
ダイバーの体験記では、吐き出す泡と同じ速度で横へ流された為、BCDにエアーを入れて緊急脱出したとある。この著述では、その原因については特定しておらず、海の危険で不思議な事、として紹介している。人間の目で海上から見ても内部波は見えない。イカなら見えるかもしれないが。

058◆歌う島◆

オレの歌を聞け!と叫ぶ島ではなく、地質構造が振動板と共鳴箱になっている珍しい島の事。実例は確認できなかったが、潮の力で音を発する所もあるのだから、存在しても不思議ではないだろう。但し、歌がトリトン族の可聴域なら、陸人には聞こえないかもしれない。
スズキコージ「海のカラオケ」のように、磯の生き物が総出でカラオケを唄う島も、「歌う島」に入れても良いのではなかろうか。

059◆拘束する故郷◆

各々の生業を披瀝し合って、結局キズつけあうトリトンとピピ。陸のパトスに支配されているトリトンには、北極圏の糧食確保の大切さと数少ない緑を豊かに楽しむ事の重要さは理解できない。海のパトスに縛られてきたピピには、生命の危難を最低限に抑え、溢れ返る娯楽の上に更に改変を加えようとする陸の貪欲さは理解できない。
トリトンは、手持ちの文明の残滓を全て失ったロビンソン・クルーソーになる必要があり、ピピは南の海という環境に順応するしかないのだ。

 雨が降ったぐらいでは地は固まらないのである。