Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第2話 トリトンの秘密

脚本・松岡清治  絵コンテ・永樹凡人

014◆漁船◆

ロング・ショットとアップでじっくり見せてくれるのは、まき網漁船。2そうまきらしい。推進機関は焼玉エンジンのようである。ディーゼルの普及は、昭和45年以降になって急速に進んだので、この設定はOKか。

015◆ドリテアの住居

カミーラの船より更に古いタイプらしい。カットによって絵が変わるし朽ちているので、船種の特定は困難であるが、十八世紀後半のフリゲート艦のようである。艦首像だけ見ていると、トラファルガー海戦の絵に出てきそうだが、衝角が貧弱過ぎる。砲は24門前後、マストの数は不明。

016◆七つの渦巻き◆

「七つの海」もそうだが、7には「全て」「多くの」といった意味がある。秘数3と4の合計7は、神智学では「聖なるもの」「全きもの」を指す。他にも七賢人、七福神、ヨハネの黙示録のラッパ等々。ここでの七つの渦は、世界中の渦が集まったかのような場所を指すのであろう。そして、渦の発するハープの音色は、聖なる不可侵の場所の証である。

しかし、その反面、絶対安全地帯である渦の内部は、他の哺食者を寄せつけない。メドンが巨大になったのは、渦のおかげかもしれない。そうなると、遠く外洋を目指さねばならないトリトンにとって、メドンは本当に力になれたのか。

製作者は、デウス・エクス・マキナの登場を回避しようとしただけではなく、閉鎖された条件下でのみ有効な父性の脆弱さをも渦から引きずり出して、白日の下に曝そうとしたのだろうか。

017◆メドン

海ガメに対するイメージは、東/西洋で正反対である。西洋では人を喰い、東洋では主に家・鎧・安全を示す。メドンは無論、後者のイメージである。

実在した大ガメ・アーケロン(体長4〜5m)は、口がカギ型なのでメドンとは異なる。トールキン「トム・ボンバディルの冒険」のファスティトカロンは超大ガメだが、印象はアーモンに近い。エンデ「はてしない物語」のモーラは、カメの象徴である両性具有的な扱いであり、伝令使という役割がメドンと共通している(「オデュッセイア」のメドンも伝令使)。

巨大ガメといえば、(亀と呼んではいけない)ガメラがいる。一応、「アトランティス人の最後の希望」という役を担っていた。メドンも、この「生きている海底軍艦」のような能力を持っていれば、原作と同じ活躍が出来ただろうか。(「大怪獣空中決戦」「レギオン襲来」共に、ガメラの登場シーンが美しい)

018◆法螺貝◆

この大きな巻き貝が、サンゴを食うオニヒトデの天敵であり、トリトンの角笛(独)と呼ばれているのは有名である。ホラ貝を吹き鳴らす習慣は、日本はもとより世界中に広がっている。トリトンがメドンから渡されたホラ貝は、トリトン族にしか判らない言語の音声ROMを内臓し、自律的な出力で作動し続ける魔法のアイテムである。

ホラ貝の羅語名は冥府の渡し守カローンから来ている。第3話、11話、12話、15話、27話と眺めた時、「トリトン」でのホラ貝のイメージが、ダークなものに感じられる。間接的に死の種をバラまいているからである。

019◆シュトルモビック◆

巨大なノコギリエイである。しかも単体ではなく、巨大アンコウやギンザメと同じく大量に配備されている。このような巨体を維持するのには、どれほどの食料が必要なのだろう。ポセイドンの言う暗黒の死の海とは、食い尽くされた海の事なのだろうか。ノコギリエイの形態では、サラマンドラとは違って上陸は不可能であるが、陸人の船舶にとっては「ウルトラQ」のボスタングと同様に脅威である(シュトルモビックの初期設定は巨大なマンタ)。

シュトルモビックとは、第二次世界大戦で「空飛ぶ戦車」と呼ばれたロシア空軍の地上襲撃機iL-2及び10の名称である。確かにノコギリエイの方も海上をジャンプして飛んでたが…。

020◆ゴルゴの手下◆

フィンの科白である。ゴルゴ(独)→ゴーゴン(英)→石化能力とマカーブルヘアーを持つ怪物→ドリテアという解釈で間違いないと思う。しかし、なぜゴルゴという名称が使用され、漏れたのであろうか。それほど製作現場が混沌としていたのだろうか。

ゴーゴン(=ゴルゴ)は、メデューサ三姉妹以外にも別の怪物が物語られている。カトブレバスという野性の鹿もしくは牛に似た獣である。陸人にもゴルゴがいるし、映画「怪獣ゴルゴ」もあり、鷲のゴルゴもいる。ゴルゴは死なず、ただ消え去るのみ。

021◆イルカたち◆

トリトンを運ぶものは、ギリシャ神話の時代からイルカである。最後まで、トリトンと行動を共にした四頭のイルカの名は、「イルカ」を基にしたアナグラムだが、カタカナ表記になると聖書や小説に同名の人物が登場するのでダブル・イメージを楽しむ(?)事ができる。

イル、カル、フィンは、バンドウイルカの三兄弟。ルカーは同種のアルビノ個体で、クレセントの紋様を持っている。三日月は、水生のもの、女性原理の象徴であり、聖母マリア等のエンブレムである。

ところで近年、多量のイルカまたはクジラ本が出回っている。六十年代に「イルカの日」のモデルになったJ. C. リリーの報告があり、レオ・シラード「イルカ放送」が出た辺りが源流となっているのだろうか。最近のものを見ると、科学より宗教の域へ突入している。環境NGOのイルカ混獲ビデオの捏造やイルカ・セラピーに至っては、もはや語るべき言葉を持たない。

イルカも生物であるから、殺イルカや殺人も行なう。イルカの知能に関する著作も、根源にある人間(白人?)本位主義が顕著である。脳と体重の相関によって知能を測るなら、エレファントノーズ・フィッシュが最高の知能という事になるが、この種は見向きもされていない。特定のイデオロギーや嗜癖で左右される事柄ではないと思えるのだが…。

さしあたり陸人にできる事は、漁獲量の減少をアメリカ、カナダ、日本のように安易にイルカ達のせいにしたりしない事である。また、聞く耳を持たない国家の集中砲火的乱獲を制御し、陸人以外の生物の取り分を守る事だろう。