Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第21話 太平洋の魔海

脚本・辻真先  絵コンテ・山吉康夫

094◆ゲルペス連隊◆

海洋生物のコンポジットや巨大版ではなく、全て半魚人で構成された数十〜百数十人の親衛隊(設定書より)。

特定の民族=トリトン族とその一派(イルカ等)を根絶するために組織されたポセイドンの怪人を、ナチスの突撃隊(SA)または、ゲシュタポになぞらえるなら、このゲルペス連隊はまさしく、親衛隊(SS)に該当するだろう。すると、隊長は、ヒムラーのアナグラムが適当だが、実際にはナチス宣伝相のアナグラムとなった。

レハールは、幻像でトリトン達を撹乱し、疲労させ、最後に本物の半魚人を使って奇襲する算段だったが、レハールの幻の本質を知るヘプタポーダに看破され、白兵戦へともつれこむ。

095◆無機物の操作◆

レハールの操る怪物は、洞窟の怪物や巨大ウミユリのような幻像と、白鯨やカイロウドウケツのような動く死体に分かれる。

後者の死人使いの魔術は、かなりおぞましい部類に属するとみえて、「選集抄」の『西行、高野の奥に於いて人を造る事』に紹介される反魂の術やC. A. スミス「イルルニュの巨人」の死体の積み木による巨人等、一読すると忘れ難い印象を残す。もし「甦った白鯨」を再話するなら、白鯨の体を水死人の塊で造るという不届きなプロットも考えられる。
或いは、死んだゲルペス連隊の半魚人を操って、何度もトリトンを襲わせるという筒井康隆「トラブル」か、「エヴァンゲリオン、Air」のような無気味な話も可能であろう。
 
■P.S.(2005.05.05)久々に「のってけサーフィンズ」発行のファンジン「疾病怒濤」を再読していて、「カイロウドハケツ」のチェックが漏れていたのを思い出しました。この単語はTFなら説明不要の事項です。シナリオ、アフレコ台本の段階で、既に誤記があったらしいのですが、その誤記の原因は多分、古い図鑑に「かいろうどほけつ」という記述があったのではと考えています。で、「ほ」の上の線が消えていて「は」と読んだのではないかと、勝手に推測しました。そもそも名称を調べたのは誰だったのか。文芸担当ではないのか。これも取材して、真実を明らかにしておきたい事のひとつでしょう。
今の所は、「字源」等で「かいらうどうけつ」しか確認できていません。

096◆盲目になる事◆

ゲルペス連隊との戦いに於いて、少々情けない場面もあったが、終盤にテンションが急上昇する。レハールは短剣の輝きを直視(?)して、失明した上に放逐される。類似の状況を描いた作品としては、「天地創造」「人類SOS」「天空の城ラピュタ」「オーガス02」等、数えれば結構あるようだ。

このような重度視力障害者を、従前は「めくら」と呼び、ある状況や蔑みの常套句として用いてきた。ただ闇雲に言葉を封じ、別の言葉に置き換えても、本来指し示すものが変わるわけでない。視力に頼って外部情報を処理する「健常者」にとって、最も恐ろしい状態を闇に押し込める行為は、それ自体すでに盲目的かもしれない。ある嗜癖の上に成り立つ事柄なので、こういったものは無数にあるはずだ。職業等の末尾に、『…さん』と付加される類いは全て該当するだろう。そう呼称する事が既に蔑視語なのである。

097◆きらめく陽光◆

「海のトリトン」のテクニカルな部分というのは、どのような評価が適切なのだろうか。アニメ評論家の減点方式評価には、正直なところ食傷気味である。
TV放映のキツい枠の中で、エモーショナルな描画、光に満ちた熱帯の島の情景、止め絵に凝縮された時間、時にはテンションの高い絶妙な画面構成も見られる。粗雑かもしれないが、高いスキルが随所に転がっている。

海の描写に関して言えば、第21話を見るにつけ、無理に動かさず画面構成の力と科白だけで、描き切っても良かったのではないかと思える。