Tの拾遺

(テキスト作成は1997年)

第20話 海グモの牢獄

脚本・松岡清治  絵コンテ・斧谷稔

090◆夜明けの光と間違う恐怖◆

仲間の魚たちが夜明けかと思い、もそもそと動き出すと、まだ未明。はて、何を見間違えたかと思い、四方を見渡せば、そこへ光の元ポセイドンのレハールが、すっ飛んで来て、行く手の生き物を、薙ぎ倒し引きちぎりして通り過ぎて行った。
げに恐ろしき「吉備津の釜」(雨月物語)の如き一夜であったとイルカどもに語りつぐ。

091◆スパイダー◆

いわゆるウミグモとは、かけ離れた生物である。「二つの目」がランランと輝き、「口から糸」を吐いて、海底の洞窟を牢獄と化す巨大なクモ型の怪物。クモは、罪人を捕らえる悪魔の意があり、まさに脱走の罪を負ったヘプタポーダの監視役にふさわしい。

スパイダーと牢獄の設定は、映画「吸血原子蜘蛛」(米国、1958年、原題 Earth V.S. the Spider)から取材されている。また、スパイダーの咆哮も同映画からのものである。しかし、口から吐く糸の方は、この映画には登場しない。これは、大映「大江山酒天童子」の土蜘蛛甚内、東映「ゴジラの息子」のクモンガ、東映動画「安寿と厨子王丸」の妖怪グモ、「ウルトラQ」第9話、モスラの幼虫…等があり特定が難しい。とりあえず、羽根作監の所属されていた東映動画からという事で、いかがなものか。

■P.S.(04.03.28)…「ワタリ」の製作に羽根作監も参画されているので、「怪竜大決戦」の大蜘蛛かもしれない。

092◆生きた剣◆

原作トリトンにも登場した、ダツに似た魚が諸刃の剣に変化し、攻撃を仕掛けてくる、夢の生体兵器。太刀魚などという魚もいるが、魚が太刀に似ているのか、その逆なのか。「海のトリトン」以前にも、同じ使い方をしている作品がある。映画「海底王キートン」(米国 1924年)あたりが源流か?

093◆輝く太陽と青い海◆

『彼等は甚だ本然的ではなく、あまりに太陽に当たらな過ぎるのであった。彼等はそれほど墓場の虫の様であった。』(ロレンス「太陽」)

      *      *      *

ヘプタポーダの望んだもの「輝く太陽と青い海」、それが手に入れば、別の人間になれるような気がしたのだろうか。しかし、それは永遠に憧れで終わる事になる。

ポセイドン族及びその下僕たちにとって、太陽の輝きは吸血鬼のそれほどではないにせよ、耐え難いものがあるらしい(単に眩しくて目がくらんだという説もあるが) 。
ヘプタポーダは、メタファーとその造型を考えれば、豊かな女性性の具象としてピピの前に現れた、イヴに対するリリスとも思える。