Tの周縁

桃の谷のゼネプロ

「記憶を手繰る」

大阪市生野区桃谷にSci-Fiショップ「ゼネラル・プロダクツ(以下、ゼネプロ)」が開店してから早や約20年が過ぎました。全てのものに流れた時の長さをふと考えてしまう。当然ゼネプロは、もう桃谷にはありません。美容室ほどのミニ店舗から広々としたテナント(2階)に移り、また元のミニ店舗へ戻ってから花の東京へ進出されたからです。

この桃谷店は、管理人と当時の友人らにとって地理的に中間地点に位置していたので、よく集まっていました。ここで過ごした時間というのは色々な思い出と直結しています。店内の喫茶SIDで、粗利率の悪そうなデカいゼネプロ特製マグカップに入った、香り高く?濃いアメリカンを飲んで待ち合わせしていました。店内に並んだ超合金ロボ軍団に、管理人の「ガ・キーン」も加える話もしたような…、結局売らなかったので手許に残ってます。

決して、冷やかし客ではなく結構いろいろと購入しました。ゴジラの胸像はさすがに買いませんでしたが、グッズ兼実用品をメインに買っています。小は設定資料、タイピンやエプロン等々、大はやっぱりビデオでしょうか。阪急ファイブ・駸々堂が健在でファンジンを扱っていた当時、ゼネプロにも数は少ないながら濃い作品集が並んでいたので、これも漁るのが楽しみでした。
(※駸々堂では「コロッサス」「ペリーローダン大95図解&レキシコン」。ゼネプロでは、「マクロス・ジャーナル」「U・ガイム」「メカ・オペ・ブック」等々が並んでいて重宝した)

日本社会はバブル崩壊まで数年のタームがあり、どことなくのほほんとした気分の時期です。世界ではNY株大暴落やチェルノブイリとか大事件が山ほど起こっているんですが、なんとかなりそうに思えた時代とでも言いましょうか。

「Magic Lantern」

ゼネプロ設立の端緒が、有名なDAICON_IIIオープニングアニメだったこともあり、ゼネプロと幻灯機がダブルイメージになっています。当時、自主製作アニメや映画の製作方法は、まだまだ8ミリカメラを使うのが主流でした。一連のDAICON_FILMも「八岐大蛇の逆襲」以前は、名機フジカ_ZC-1000を使用しています(管理人はZ800)。
このカメラは様々な合成や画面分割、3倍高速撮影に加えて、レンズの交換が可能な唯一の機種でした。それよりも下位の機種は、コマ撮りや逆転撮影程度です。通常は、コマ撮りさえ出来れば簡単な光学合成も可能なので、スリットスキャンぐらいは処理できます。基本的に一発合成なので、出たとこ勝負というのが面白くもありました。

8ミリ映画・アニメの製作リファレンスとしては、「小型映画・アニメと特撮」がありました。「DAICON_III〜」は2ツ穴タップで製作されたそうですが、もしかしたらこの本を使ってたのでしょうか。 DAICON_IVはビデオ販売のみですが、DAICON_IIIは8ミリフィルムも含まれています。映像ソフト過渡期の証人です。しかし、おまけ無しで34m_2万円はやっぱり高いと思いました。参考までに8ミリフィルムの場合、24コマ/秒では10cm/s、18コマ/秒では_7.5cm/sで上映時間に換算しています。

8ミリ映画といえば「DAICON_III〜」以前に、PAF6(1980)で上映された「みず」、次の「丈夫なタイヤ」も忘れ難いです。共にグループ_SHADOと庵野氏の作品です。ビデオには「丈夫なタイヤ」「下手な鉄砲も数撃ちゃ〜」が収録されています。
ゼネプロとは関係ありませんが、PAF上映作品のライブラリーを作るという話はその後どうなったのか。ごく一部が、商業ベースでビデオ化されているだけではないでしょうか。「小型映画」誌に収録されたものだけでも保存しておいて欲しいものです。中には「N氏の復活」のように肖像権上、困難なものもあるでしょうが…。

翻って、現在のノンリニア映像編集とメディアへの記録の容易さは、本当に驚異的です。自分で使いながらも、進歩の早さには舌を巻きます。作り込むための手間は当然必要ですが、完成品のレベルが段違いです。以前よく言われていた、フィルムに固定された連続画を見る驚きから映画作りへの関心が深まる、といった言葉をあまり聞かなくなりました。やはり人間は怠け者だからでしょうか。

ついでにフィルム上映の話もひとつ。

16ミリフィルム映写機も、映写機の自動化がその手間を省いてしまうまで、使用講習を修了する義務がありました。フィルムを貸し出してもらえなかったのです。フィルムは難燃性ですが、失敗するとランプの熱で溶融するからです。現在は、プロジェクターを使用する事が多く、煩雑なセッティングも必要ないので楽ちんです。
ところで上映中にフィルムが溶けるとどうなるか…。一度だけ和歌山市の上映会で目撃しました。案外、すぐには気がつかないものです。熱で徐々に変形するので動いているように見えるからです。黒く変色し出してから大急ぎで対応するのですが、既に手遅れです。最悪の場合、1巻単位での弁償となります。
※PS:江戸川乱歩の随筆(「婦人公論」1924年)に「映画の恐怖」という同ネタ話があった。お・面白い。

「記憶の打ち止め」

この後は、GAINAXの「オネアミスの翼/王立宇宙軍」「哭きの竜」「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」…へ連綿とつながると共に、舞台は東京になります。以上、桃谷のゼネプロが、8ミリ映画の最盛期と凋落にぴったり重なるという話でした。

P.S.「ふぁんろーど浪花海賊版」をおまけで追加。