Tの周縁

ソ連映画の冒険

ソビエト映画といえば、まず連邦動画スタジオの数々の名作「黄金のかもしか」「イワンと仔馬」「雪の女王」「森は生きている」等が思い浮かびます。
映画産業の国営化自体は1919年からで、そこからエイゼンシュタイン、プドフキン、タルコフスキー、パラジャーノフ、ノルシュテインらが国家庇護のもと輩出され、時には抑圧・亡命が発生しました。映画産業の国営化がもたらした功罪はなんとも言い難いです。
とりあえず此処では、ソビエト映画に於ける冒険・SF映画を、タイトルだけ抜粋してまとめてます。これも、まとまった作品解説本が出てくれないからです。それとも既刊なのに、お間抜けにも管理人が気がついていないだけですか?

有名なのは、やはりアレクサンドル・プトゥシコ監督(Alexander Ptushko:1900年〜1973年)の作品です。不完全なリストですが、少しはまとまってきました。書籍によってフィルム完成年と公開年のズレが見られるので、岩本憲児氏の解説(公開年)に合わせてます。一部のネット上データベースに「ルスランとリュドミーラ」が1938年公開とされていますが、「漁師と魚の物語」に含まれている一場面と混同されたか、舞台ものの手伝いと思われます。

  • 「The Missing Certificate」動画…1927年、監督。
  • 「An Incident at the Stadium」…1928年、監督。
  • 「The Coded Document」動画…1928年、監督。
  • 「(如何にすべきか?)」…1928年。季刊「NOA'S VESSEL」7号に於て、野尻浩一氏が紹介されている人形映画。
  • 「One Hundred Adventures」動画…1929年、監督。
  • 「Movies to the Village」…1930年、監督
  • 「Strengthen Defenses」動画…1930年、監督。
  • 「Властелин быта」(習慣のとりこ)The Ruler of Lifestyle…1932年、監督。「動画映画論」で「時代の統治者」という訳が成されていたが、映画祭で紹介された際の題名が適切でしょう。実体動画による映画製作技術を確立した喜劇作品。
  • 「Новый Гулливер」(新ガリバー)The New Gulliver…1935年、72分、監督。長編実体動画劇映画。何百もの人形(総数は1500体らしい)によるモブシーンが圧巻。チャップリンも絶讃した(らしい)。
  • 「Aerocity」…1935年、特撮監督。
  • 「Captain Grant's Children」…1936年、撮影。おそらくJ・ヴェルヌ「グラント船長の子供たち」だと思われる。
  • 「The Little Turnip」動画…1936年、監督。
  • 「The Wolf and the Crane」動画…1936年、美術監督。
  • 「Сказка о рыбаке и рыбке」(漁師と金色の魚)The Fisherman and the Goldfish…1937年、監督。有名な民話の線画動画映画、画家P.バジェノフが演出をサポート。「漁師と漁師の妻の物語」ともあるかも。
  • 「Веселые музыканты」(The Marry Musicians)…1937年、監督。「陽気な音楽家」とでも訳すのか?
  • 「The Fox and the Wolf」動画…1937年、脚本、美術監督。
  • 「The Little Daring One」動画…1938年、脚本。
  • 「The Dog and the Tom-Cat」動画…1938年、監督。
  • 「Золотой ключик」(黄金の鍵)The Golden Key…1939年、監督。A・トルストイ原作による実体動画劇映画。この後は劇映画の監督となり実体動画から離れる。
  • 「Парень из нашего города」…1942年、監督。英題は「A Guy from Our Town」、詳細不明。
  • 「Секретарьрайкома」(Regional Party Secretary)…1942年、監督。詳細不明。「書記委員会」とでも訳すのか?
  • 「The Steppe Batyrs」…1942年、特撮監督。
  • 「Зоя」…1943年、監督。英題は「Zoya」(女の名)。
  • 「The Moscow Sky」…1944年、特撮監督。
  • 「The Missing Certificate」…1944年、美術監督。
  • 「Синдбад мореход」(船乗りシンドバッド)…1944年、撮影。そのまんま、シンドバッドものです。
  • 「Каменный цветок」(石の花)A Stone Flower…1946年、80分、監督。バジョーフ原作、ソ連初のカラー長編。
  • 「三つの邂逅」Three Encounters…1949年、監督。ユトケヴィッチ,プドフキンらと共同製作されたオムニバス映画。
  • 「Садко」(虹の世界のサトコ)Sadko…1953年、90分、監督。英雄叙事詩ブィリーナを元にしたコルサコフの歌劇(1898年)を映画化。原詩では商船隊が30隻だが映画では3隻になっていたり、かなり脚色されている。
  • 「Илья Муромец」(豪勇イリヤ・巨竜と魔王征服)Ilya Muromets…1956年、94分、監督。英雄叙事詩の映画化。火を吹き空を飛ぶ三つ首竜が登場、キングギドラの原型らしい。モブシーンも凄まじい人海戦術。
  • 魔法の水車・サンポ」Sampo…1959年、監督。フィンランド叙事詩「カレワラ」に取材した作品。本作の日本語版監修(1962)は、本多猪四郎監督(NOA'S VESSEL No.7より)。
  • 「Алые паруса」(深紅の帆) Scarlet Sails…1961年、89分、監督。詩美あふれるA・グリーンの原作を忠実に映画化したもの。本物の深紅の帆船が感動的。アッソーリが原作のイメージ通りだった。
  • 「My Friend Kolka」…1961年、美術監督。
  • 「Beat Up, Drum!」…1962年、美術監督。
  • 「Fuse No.3」…1962年、脚本。
  • 「Сказку о потерянном времени」(失われた時の物語)The Tale of Time Lost…1964年、監督。
  • 「Сказки о царе Салтане」(サルタン王物語)The Tale of Tsar Salrtan…1966年、85分、監督。プーシキンの叙事詩を原作にした作品。同監督初の70ミリ作品。
  • 「Вий」(魔女伝説ヴィー(妖婆死棺の呪い))Viy…1968年、72分、総監督。ゴーゴリ原作の怪奇幻想映画。妖怪がいっぱい。魔女役のヴァルレイが体を張ったローテクな特撮も面白い。撮影風景を見てると、経帷子が風で張り付いてボディラインがくっきりと(って、張りつくほど薄いかフツー)。
  • 「Руслана и Людмилу」(ルスランとリュドミラ)Rusian and Lyudmila…1973年、149分(78+71)、監督。プーシキンの詩を基にしたグリンカによる歌劇(1842年)を映画化。中世を舞台にしたヒロイック・ファンタジー。上映時間を110分としている書籍もある。おそらく、日本公開時のデータと思われる。DVDは2枚組。

以下、目についた冒険・SF映画をタイトルのみ列記します。「アエリータ」「ドウエル教授の首」「原子潜水艦」「アラジンと魔法のランプ」「火を噴く惑星」「惑星アルカナル/宇宙からの使者」「青い鳥」「ゼロシティ」「不思議惑星キン・ザ・ザ」「ピルクスの審問」「惑星ソラリス」「ストーカー」「テイル・オブ・ワンダー」「死者からの手紙」「第三惑星の秘密」「姿なき復讐者」「ムフタール、こっちへ来い!」「ロケットを発射させるな」「これから君をどう呼ぼう」「両棲人間」「キョール・オグルイ〜魔法の剣」「せむしの仔馬(実写版)」「外套」「スペードの女王(国営化以前のもの)」…。

ぼちぼちビデオ・DVD化は進行しています。今般、ネット上で「ロシア映画社」を含め店頭でも数点は入手可能になってきました。A・グリーン好きのTFは覗く価値があるかも…って、凄く限定的推薦じゃな。

■PS(2017.05.02)「深紅の帆」DVDが、下記の「DVD Fantasium」で廃盤になって久しい。そもそも未見の作品が多いのだが…。

■PS(2006._4.25)「深紅の帆」の入手方法について、問い合わせをいただいたりしたので確認しました。手っ取り早そうなのは、米国版オンラインショップ「DVD Fantasium」タイトルで検索すれば出ました。日本語未対応の「RUSCICO」より楽チンかも。などと書いても、ここはアフィリ・サイトではありません。

■PS(2004.12.16)heigo-gamer氏のヤフオク出品内容が大幅に変更されたので、紹介とリンクを削除しました。

書籍の方はといえば、1960年以降の作品に対する評論集が少ない理由も、ロシア語で考えなければならないという作業が障壁になっているのかもしれません。特に未公開作品のチェックは難しそうです。蛇足ですが、ソ連映画の雑誌も列記しておきます。最盛期には14誌、50紙あったそうですが今は不明です。当然ですが、いずれも原題はロシア語です。

  • 「映画芸術」:理論・歴史・評価・製作スタッフ紹介・シナリオ等を掲載した月刊誌。
  • ソビエト・スクリーン」:新作紹介、俳優のポートレート、読者の人気投票等。一般的な映画ファン向け月刊誌。
  • 「ソビエトフィルム」:主として海外向けの月刊刊行物。
  • 「映画観客スプートニク」:挿絵入りの月刊上映目録。
  • 「ソ連映画」:新聞の記事を集成した週刊資料集。
  • 「映画技術とテレビジョン」:映画とテレビの製作・公開に携わるスタッフのための刊行物。
  • 「キノメカニック」:映画委員会の月刊機関誌。映画の普及や運営に関する資料・評論。

今後ロシアが、自国の映画という資産をどう生かすか、見せていただきましょう。現在はハリウッド映画に席巻されて、悲惨な状況のようです。ノルシュテイン氏の作品も、「話の話」まではモスフィルムに売り捌かれてしまったそうで、なんとも口惜しい。全部ではないがソ連時代の冒険・SF映画はお薦めが多いです。


※追補…映画の原作をぼちぼち列記。

  • アエリータ…A・トルストイ「火星に行った地球人」
  • ドウエル教授の首…ベリャーエフ「ドウエル教授の首」
  • 両棲人間…ベリャーエフ「両棲人間第一号」
  • 原子潜水艦…アダモフ「海底5万マイル」
  • ピルクスの審問…レム「宇宙飛行士ピルクス物語」
  • 惑星ソラリス…レム「ソラリスの陽のもとに」
  • ストーカー…ストルガツキ兄弟「ストーカー」
  • 惑星アルカナル/宇宙からの使者…ストルガツキ兄弟「神様はつらい」